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新聞を読んで

昨日の日本海新聞「潮流」欄
『渡辺一正 水力発電を見直そう』と云う記事が目に留まった。
満更この分野の素人ではないので気になるフレーズが幾つか有った。
重箱の隅をくっついてもと云う気もあるが、やはり何も知らない人々は、
そのまま受け止めてしまうだろう。
氏の言わんとするところは、今回の原発事故を受けて、
自然エネルギーのひとつである水力発電の大切さを再認識しようという。
これは最もな事であるが、トータルとしてやはり読みが浅い見解であろう。
水力の見直し自体は全く是であるが、
従来型の踏襲では済まない社会情勢を理解しなくてはならない。

計画停電
一般的な節電でなく、定常的な節電しか有効でなく、計画停電が最も確実な方法な訳である。
なぜ一般的な節電でなく・・・であろうか、計画停電は極力避けなければならない、
つまり停電すると言うことは、バッサリ電源を失うことであるから、
企業活動の痛手はもちろん、病院、研究機関、家庭にとって有ってはならないことなのである。
むしろ一般的節電を極限まで実施すべきである。
自販機の大胆な規制、不要不急の照明の制限、エアコン温度の高温設定、若しくは部分停止、
エアコン規制はヒートアイランド軽減に役立つし、グリーンカーテンの大々的普及、
などなどありとあらゆる智恵とテクノロジーを駆使して
節電を実行すれば計画停電は避けられる方向に向かう。
今期は間に合わなくても、来年、或いは1年、2年先のピークを乗り切るには、
さらに対策を積み重ねる。
太陽光パネルの普及大推進、スマートシティー構築の模索と実行、
個人住宅、ビル屋上全て利用対象となる。
冷暖房における地下熱利用促進、これは住宅、大型集合住宅、商業ビル等全てである。
ことに新築に対しては、義務付けるのである。
照明のLED化なども有効だ。

交通機関においては、電車の回生制動実施、これは一部において行われていると思われるが、
徹底実行する。
以上は都市においての仮題である。
非都市部においては、農業への地熱、太陽光などの循環エネルギの全面利用などが加わる。

結論として、氏曰くの一般節電を大いに薦めれば、
計画停電という究極の対策をしなくても済む。

電力会社が用いている電力貯蓄の方法で代表的なのは揚水であり、
下流から水くみ上げる方法である。・・・・

あながち間違いとも言えないが、表現方法に問題がある。
揚水発電の基本は上部池と下部池からなる。
その間を水路と水圧鉄管路で結び、下池近くにポンプ水車と発電電動機とが設置される。
だから下流という表現は当たらない。
下池は河川に設置される通常のダム湖で、
揚水の原水を確保した上で、深夜時間帯のオフピーク時に上池にポンプアップされる。
上池は全く河川が存在しない場合ガ多く、この場合は純揚水と呼ばれ、
上池の流域面積が大きく、自然流量が加わる場合は混合揚水と呼ばれる。
その分発生電力量が多くなる。

電力供給は水力発電に始まったと言っても過言でないが、・・・・
これはその通り。だが後述の内容がどうも気になる。
ダムが大規模に過ぎるためで、かって灌漑用のダムのように川幅の全副をつかうのではなく、・・・
灌漑用というくりも限定的で、実際はダムのほとんどは多目的で、洪水調節などの治水、工業用水、農業用水、上水道用水、そして発電用などで構成される。
そしてその一部を利用する方法に改めれば、
水運や魚の遡上を妨げたりしないダムの建設は、可能のように思える。

は水力発電は大別して、ダム式と流れ込み式の別れる。
前者がダムを利用する発電形式で、出力を自由にコントロールできる。
後者は取水堰(これを通常ダムとは言わない)から取水して、
水路を通じて落差を得られる地点まで送水し、オープンな状態で発電する。
つまり河川流量に支配されて、出力コントロール幅は小さい。
つまり出力を落とせば、その余った水は無駄に捨てられることになる。
いわゆる流量任せの発電である。
だから氏の言われることに理解を示したいが、何か釈然としない。
揚水もダム式は応用であるから、出力は自在にコントロールできる。
県内では日野郡の俣野発電所がそうである。

発電は一般的にダムから受遺かに行うのではなく、発電能力はこの水槽からタービンまでの落差と水圧管路の管径と勾配ならびに落差によるもので、必ずしも大規模のダムが必要とはいえない。
この辺りは全く理解をしておられない。
むしろダム式はダム直結なのである。
圧力水路を経由した場合は、サージング吸収のためサージタンクを水圧鉄管路の直前に設けるが、
これとて水車とダム湖の水は直結だからこそ、出力調整が自在なのである。
そして出力は落差と水量の乗算であって、勾配は全く関係なく流量によって決まる。
つまり管径も流量次第なのである。
さらに大規模なダムは必要とはいえない。
と記されているが、発電能力とは発電力(出力)と発電電力量で決まる訳で、
ダムが小さければ、自ずと調整能力が小さく、
ダムが小さい場合は自然河川流量に限りなく近づいて発電力は小さい方向へと向かう。

揚水発電は、実は原子力発電が行われるようになって生まれたものである。
これは事実と異なる。
日本の揚水発電は、1930年代に始まっている。
既に一定ベース運転が効率運転上好ましい火力発電所の深夜余剰電力吸収用として、
始まった。その後火力の大型化、つまりユニットが百万キロワットを超える
スーパー火力が出現するに及んで、さらに揚水の必要性が増して、
各電力会社は揚水発電所建設へと力を注いだ。
火力発電所でも似ており、燃焼を一挙に停止すれば燃焼炉が壊れる危険性が高いが、
原子炉の場合は機構が複雑で一層難しい。

火力、緊急停止や出力抑制の場合は、先ず蒸気を排出する。
つまり折角の蒸気を捨てる訳だから、発電効率が悪くなる。
だから一定ベースで発電することがベストなのである。
だからといって出力制御や停止はしなければならない事態はいくらでもある訳で、
例えばどこかの送電系統が脱落すれば、たちまち負荷が減るから
水力だけでは間に合わなければ、火力だって出力抑制や緊急停止はいつ発生するか判らないのである。
したがって氏曰く、燃焼炉が壊れる
これは無いのである。系統事故はいつだって起こり得る。
だからいつなん時、トリップ(送電系統から離れること)するか判らないのである。
氏の説だととっくの昔に燃焼炉が壊れ、原子炉は爆発することになる。

最後に氏曰く、水力発電は弁の開け閉めだけであるから最も制御性が良いことになる。
これはその通りであるが、弁というよりもガイドベーン(案内羽根)と云っている。
この開閉で出力をゼロから最大まで自在にコントロールできる。

ただし、いずれ著す予定のミニorマイクロ水力においては、実態が違うことを言っておく。
氏の言わんとするところ、つまり水力を見直そうとの見解は賛同だ。
単に従来視点では開発地点が限られてきた水力適地だけでなく、新たな視点で
のミニ・マイクロ水力を含めた水力、さらに風力、太陽光、地熱利用、バイオ
などなどあらゆる発電方式を集合させることにより脱原発は可能である。
さらに大切なのは、新たなサイエンスの研究、テクノロジーの開発を猛烈に
促進することだ。これは人材養成が根底にないといけない。

参考
新聞を読んで_e0166734_23502047.jpg

by tomiot3 | 2011-06-02 23:55 | 多論好論 | Trackback | Comments(0)